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落石の自然

落石岬(落石岬湿原)

落石岬は、高さ約50mの海食崖に囲まれた平坦な台地。中心部にアカエゾマツの純林がある高層湿原があり、独特の景観を見せている。その外縁をとり囲むように草原があり、北方系、高山植物をはじめ数多くの草花が咲く場所。この地の自然の中心になっている高層湿原は、水源が河川や地下水ではない湿原のことで、特徴あるその植生からミズゴケ湿原ともいわれる。この地の自然の中心になっている高層湿原は、水源が河川や地下水ではない湿原のことで、特徴あるその植生からミズゴケ湿原ともいれわる。落石岬では雪解け水や雨、そして夏(6?8月)に毎日のように発生する海霧(うみぎり:地元では「ガス」とも呼ばれる)を源として成り立っている。 また海霧は、水分だけでなく冷たい空気をともなって、日照をさえぎり低温にする。根室の夏の気候は、北海道のほかの地域に比べると冷涼なうえ、落石岬周辺は市中心部より更に平均気温が約2℃も低いとされ、その厳しい条件が「どこにいても海が見える」台地の上に、まるで標高1000mを越える高山帯のような自然をつくり出している。


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厚くコケむしたアカエゾマツの純林に咲くミズバショウ(春・5月上旬)。エゾシカがいることもある。 ※日本において湿原は低層・中間・高層湿原と三種類に分類する。河川や湖沼・地下水を水源とし、おもにヨシ原を中心とするのが低層湿原で、道東ではタンチョウの繁殖地といえば分かりやすい。また低層から高層湿原へ移行段階のものを中間湿原といい、ぞれぞれ環境に違いがあり、生息している植物も異なる。

アカエゾマツ Picea glehnii

高さ30?40m、太さ1?1.5mになるマツ科の常緑針葉樹。北部・東部北海道に多く、エゾマツやドドマツと混生することが多いが、落石岬のように純林をつくることもある。岩礫地・湿地・砂丘・火山灰地など、ほかの植物が育ちにくい環境に適応した樹木である。 悪条件の環境に分布するアカエゾマツだが、ここのものはさらに矮生(小)化したうえ、奇形までしている。胸高直径15?のもので樹齢が約100年もあると推定されている。


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魚つき保安林海岸線や河川・湖沼の周辺で、魚類の棲息と繁殖を助けることを目的に指定されている。森林の陰が水面に投影され、直射日光をふせぎ魚にとって暗く静かな環境がつくられたり、魚の餌になるプランクトンが、森から供給される有機物等により増殖が図られる。また降雨時は土砂の流出を防ぎ、水質の汚濁を防止する役割もある。落石岬のアカエゾマツ純林も魚つき保安林に指定されている。

サカイツツジ Rhododendron parvifolium

寒冷地おもに東アジア北部やカムチャツカ半島などの限られた湿地に生息するツツジ科の半常緑樹。昔、サハリン南部(南樺太)が日本の領土だったとき、国境(≒さかい)の辺りに多く見られたことから「サカイツツジ」と名付けられた。サハリンの北緯50度が南限とされていたが、1930(昭和5)年、遠く離れている落石岬湿原内のミズゴケのブルト(塊)上に自生していることが発見された。1940(昭和15)年2月にはその分布の特性と、日本国内でここだけに生育するという希少性から、生息地域を含めて国の天然記念物に指定され、厳重に保護されている。

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花期:5月下旬?6月中旬

発見者:北海道大学 宮部金吾・館脇操 両博士
本来の分布から離れていることを、不連続分布または隔離分布と呼ぶ。これらの事例はまだ不明な点も多く、学術的に貴重な存在である。

落石岬の花

根室市はほぼ亜寒帯の気候に属し冷涼であるため、同じ北海道でもなかなか見ることのできない北方系、地域性のある草花、そして低地にも関わらず高山植物の宝庫。落石岬はそれらの絶好の観察場所である。


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※ルートを歩いていてよく見かる代表的なもの15種。


ユキワリコザクラ 根室市の市花  シコタンタンポポ 別名:ネムロタンポポ
トモシリソウ 名前の由来は根室市の友知から
ハクサンチドリ・マイヅルソウ 高山植物の代名詞


落石岬の動物・野鳥

動物現在、エゾシカは根室で一番観察しやすい動物。1890年代の明治初期の乱獲や大雪などによる大量死で、一時は絶滅が心配されるほど減少したことがあった。その後、保護のため狩猟を厳しく管理し、徐々に生息数を回復。1980(昭和55)年頃からは、逆に農林業、自然植生へ深刻な被害を出すほどまで増加してしまった。落石岬でもよく見かけるようになり、とくに冬期は数100頭規模の群れになることも。


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湿原周囲の草原にキタキツネ、注意深く歩いていれば木道の下を這いまわるエゾヤチネズミなどのネズミ類、オオアシトガリネズミ(食虫目:モグラの仲間)など。海上にはゼニガタアザラシまたはゴマフアザラシ(冬)。落石岬灯台や落石港でラッコが観察されたこともある。



アカエゾマツ林内の木道上から、ヒガラ・ハシブトガラ・ゴジュウカラなどのカラ類とキクイタダキ、キツツキ類のコゲラ・アカゲラ、春?夏はアオジ・センダイムシクイ・ルリビタキなど。湿原周辺の草原(春?夏)にはオオジシギ・ヒバリ・カワラヒワ・ノビタキ・オオジュリン・ノゴマ・シマセンニュウ・タヒバリ(春・秋)など。  断崖周辺と海上にはオオセグロカモメ・ウミネコ・ウミウ・ヒメウ、冬期間はシノリガモ・クロガモ・コオリガモなどのカモ類が多い。  断崖付近で発生する上昇気流を利用するワシやタカ類、とくに冬の落石岬は絶好の観察場所。オジロワシ(通年)、オオワシは普通。ノスリまれにケアシノスリが湿原や周辺の草原で餌となるネズミを探す様子を見ることができる。ほかにハヤブサ・チョウゲンボウなどや、フクロウの仲間のコミミズクなど出会うことも。



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海上は、エトピリカ・ウミガラス・ケイマフリ・ウミバト・ウトウなどのウミスズメの仲間の宝庫。またコアホウドリやハシボソミズナギドリなど海ならではの種類が、季節によって様々な姿を見せてくれる。観察は船から→http://www.ochiishi-cruising.com/

観測施設

地球環境モニタリングステーション ―落石岬―     無人大気観測施設


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1995(平成7)年10月から地球温暖化防止への取り組みとして、温室効果ガスなどの大気微量成分の観測。高さ51mにある採取口から大気を取り込み、各種測定機器を用いて大気分析。温度・湿度・風速・降水量や紫外線・日射量なども観測。毎日1回自動的にデータがつくば市にある国立環境研究所の地球環境研究センターに送信されている。同様の施設は他に沖縄県の波照間島にあり、どちらも人為的な影響が少ない、空気のきれいなところが選ばれている。また落石岬の観測施設は自然環境へ配慮し、簡易構造となっている。


地震電磁気現象観測設備

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十勝沖・根室半島沖は太平洋プレートが沈み込む千島海溝最南端部に位置し、過去に何度も大地震が発生している。2003(平成15)年の十勝沖地震の発生後、根室半島沖の地震活動が非常に低下している経緯(地震エネルギーの蓄積)があり、今後起こると想定される地震を重点監視するため、北海道大学地震火山研究観測センターが、北海道東部に多点による観測網を構築した。地震の前には、本来聞こえないはずの遠く(地震発生地点)のFM放送が受信でき、それは地震に先立つ岩盤破壊で生じた電磁波が上空に放射され、電波を散乱させるのが原因と考えられている。この現象を利用して2005(平成17)年10月から、電磁波・VHF帯電波伝搬異常の観測が根室市落石岬でも行われている。複数の地点で電波を送受信し、その変化の推移を調べることは、地震発生のメカニズムを解明する一要素であり、将来的に地震を予知(予報)するシステムの成立に重要な役割を果たすと考えられている。現在も長期にわたる観測・研究が行なわれている。